株は、ねじ口試験管に培養された状態で送付される。株を受け取ったら、キャップを緩め、保存株データに示された培養条件に合った適当な場所に保管する。株を維持するには、以下の方法で植え継ぎ、培養を行う。なお、培地は株を受け取る前に作成しておく。
i) 植え継ぐ前に培地を培養条件と同じ温度にする。
ii) 無菌操作にて、適量の細胞懸濁液を新鮮な培地に植え継ぐ。本施設では、予め滅菌した綿栓ピペットを用いて接種している(下図 1, 2)。細胞が沈殿する株や容器に付着する株ではピペッティングによってけん濁させてから培養液を取り出す。但し、細胞壁を持たない細胞では、ピペッティングによって細胞が壊れるので、攪拌せず、細胞の多いところを静かに吸い取る。接種する細胞懸濁液の量は、藻類の種や株の状態によって異なり、10mLの培地に、よく増殖した培養では1、2滴と少量でよいが、細胞が大きく細胞密度が低い場合は4、5滴と多めに接種する。寒天培地の場合は、ガスバーナーで滅菌した白金耳で細胞塊を掻き取り、新鮮な寒天培地の上になすり付ける。
微生物系統保存施設 技術動画 NO. 001 滅菌操作と植え継ぎ方法
微生物系統保存施設 技術動画 NO. 002 細胞懸濁液の接種方法
微生物系統保存施設 技術動画 NO. 003 寒天培地培養株の植え継ぎ方法 ー細胞の分取ー
微生物系統保存施設 技術動画 NO. 004 寒天培地培養株の植え継ぎ方法 ー細胞の接種ー
iii) 保存株情報で指定された温度と光強度下で培養し(下図 3, 4)、指定された期間毎に、新鮮な培地に植え継ぐ。
iv) 本施設では、1週間毎に、目視または顕微鏡で生育状況を確認している。生育が悪い場合は、再度植え継ぐ。
原生動物株では、以下の点に留意する。
i) 植え継ぐ際に、培地に穀類、餌となる生物などを接種する場合がある(下図 5)。または、事前に餌となる生物を接種する場合がある。
ii) 餌として藻類を接種した場合を除き、培養に光を必要としない。
iii) 培養容器に付着する性質をもつ株では、植え継ぎの際にピペッティングする必要がある。
シャジクモ類株は、藻体の一部を切り取った状態で送付される。株を受け取ったら、速やかに以下の方法に従って藻体を新鮮な培地へ植え込む。
i) 培地は株を受け取る前に作成しておく。その際、濃度1mg/Lの二酸化ゲルマニウム溶液を1~2mL添加しておく(900mLマヨネーズ瓶の場合。単藻株では不要)。
ii) 培養土へ竹串またはピンセットを用いて、藻体をやさしく植え込む (下図 ii)-1)。この時、節部が必ず1つは培養土の中に埋め込まれた状態とする (下図 ii)-2)。なお、シラタマモ属(Lamprothamnium ) は仮根部の球状体を、ホシツリモ属(Nitellopsis ) は星状体を土に埋め込む。
iii) 保存株情報に示された温度と光条件下で培養する。株は新鮮な培地へ植え込んでから約2週間後に新たに生長を開始する (下図 iii)-1, iii)-2) (極端な高温、低温でなければ、実験室などの直射日光の当たらない、明るい窓辺でも培養できる)。
iv) 良好な生長が確認された後に、更に株を継代培養する場合は、下記の方法に従って、保存株情報に示された期間毎に新鮮な培地に移植する必要がある。
a) 生長した藻体の上端から3~4節を、ハサミまたはピンセットを用いて切り取る(下図 iv)-a))。
b) 絵筆を用いて、切り取った藻体表面に付着している他の藻類を取り除き、よくすすぐ(下図 iv)-b))(単藻株では不要)。
c) 二酸化ゲルマニウム溶液を添加した新鮮な培地へ、ii)と同様に植え込む。
培地は一般に多量栄養素、微量金属、およびビタミン類から成る。これらの諸成分のストック液を作製しておくと、培地作成が簡便になる。これらのうち微量金属やビタミン類のストック液の濃度は非常に低いので、まず、秤量しやすい、より高濃度の液を作製し、それを順次希釈してストック液を作製する必要がある。以下、各々についてストック液の濃度と作り方について述べる。
各栄養素につき、10mg/mLの濃度のストック液を別々に作製し、冷蔵庫(5℃)で保管する。
各種のストック液として別々に作製され保管される場合と、いくつかの金属溶液を混合した混液で保管される場合がある。
各種のストック液として別々に作製され保管される場合と、いくつかの金属溶液を混合した混液で保管される場合がある。
i) 1~10mg/mLの濃度で各種金属液を作製する。
ii) 必要量の80%の蒸留水をビーカーに加える。
iii) 十分に撹拌しながら各種金属液を必要量添加する。
iv) 蒸留水を加え、最終量に調整し、冷蔵庫(5℃)に保管する。
ビタミンB12、ビオチン、チアミンの3種のビタミンだけで多くの藻類が増殖するので、殆どの培地はこれら3種のビタミン類だけが添加されている。しかし、培地によっては、他のビタミン類が添加されている場合もある。
i) ビタミンB12とビオチンについては、各々100μg/mLの原液、チアミンについては10mg/mLの原液を作製し、それぞれ1 mLずつ小分けして-20℃のフリーザーに保管する。
ii) 各ビタミンについて、保存原液の1 mLを融解し、蒸留水で1/100に希釈し、ビタミンB12とビオチンについては1μg/mL、チアミンについては100μg/mLのストック液を作製し、冷蔵庫に保管しながら使用する。
培地によっては、多種のビタミン類が混液の形で添加される場合がある。大量に作製しておくとよい。
i) 各種のビタミンについて0.1~1mg/mLの原液を作製する。
ii) 必要量の80%の蒸留水をビーカーに加える。
iii) 十分に撹拌しながら各種ビタミンを必要量加える。
iv) 蒸留水で最終量に調整し、10mLずつ小分けし、使用する分は冷蔵庫(5℃)に、使用しない分は-20℃のフリーザーに保存する。
培地は、合成培地と強化培地に大別される。すべての淡水藻類や一部の海産藻類は合成培地で、ほとんどの海産藻類は強化培地で保存されている。ほとんどの培地は、試験管等に分注した後オートクレーブ滅菌して使用するが、濾過滅菌しなければならない培地もある。
i) 必要量の80~90%の蒸留水をビーカーに加える。
ii) Tris、glycylglycine、HEPES、TAPS、Bicine、MES等の緩衝剤(必要とされる場合)を必要量天秤で秤量し、十分に撹拌しながら添加する。
iii) 各種栄養塩を各々のストック液から必要量添加する。
iv) 蒸留水で最終量に調整する。
v) 緩衝剤が使用されている場合は、1mol/L HClあるいは1mol/L NaOHで、使用されていない場合は各々1/10の濃度でpHを調整する。
vi) 培地10mLずつを試験管(18×150mm)に分注し、オートクレーブで滅菌する(121℃、20min)。
i) 必要量の80%の蒸留水をビーカーに加える。
ii) 十分に撹拌しながら、緩衝剤(Tris、NTA等)および多量栄養塩類(NaCl、MgSO4・7H2O、KCl、CaCl2・2H2O)を必要量天秤で秤量し、添加する。
iii) 他の各種栄養塩を各々のストック液から必要量添加する。
iv) 蒸留水で最終量に調整する。
v) 1mol/L HClでpHを調整する(通常8.0)。
vi) 培地10mLずつを試験管に分注し、オートクレーブで滅菌する(121℃、20min)。
i) 汚染のない外洋海水を採取し、ワットマンGF/Fフィルターでろ過し、粒子を除く。塩濃度を調べ、蒸留水で33‰に調整する。
ii) 必要量の80~90%の海水をビーカーに加える。
iii) 必要量のTris等の緩衝剤を天秤で秤量し(必要とされる場合)、攪拌しながら溶解する。
iv) 他の栄養塩類を各々のストック液から必要量添加する。
v) 海水で最終量に調整する。
vi) pHを測定する。指示されている場合は1mol/L HClで調整する(通常8.0)。
vii) 培地10mLずつを試験管に分注し、オートクレーブで滅菌する(121℃、20min)。
オートクレーブ滅菌(121℃、20min)したフィルターセット(ミリポアフィルター0.22µm)を用いて濾過滅菌する。濾過滅菌された培地は、滅菌シリンジや滅菌した分注器を用いて、あらかじめ滅菌された試験管に10mLずつ分注する。分注は無菌室で行う。
通常寒天は1.5%の濃度で滅菌する前に液体培地に加える。
i) 寒天を必要量天秤で秤量し、液体培地に添加し、オートクレーブまたはホットプレートで熱し、溶解する。
ii) 溶解後、速やかに10mLずつ試験管に分注し、オートクレーブで滅菌する(121℃、20min)。
iii) 滅菌後、試験管上部に直径1cmの枕木をして寝かせ、放冷して培地を斜面状に固める。
培地には、餌となるバクテリアを増殖させるための有機物が含まれている。穀類を添加する培地は、予め、小麦や米をシャーレなどに入れ、乾熱滅菌(150℃、30min) し、冷蔵保存したものを、使用直前に液体培地10mLに対して1粒添加する。
本施設では、培養土に用いる黒土、川砂、腐葉土、苦土石灰は園芸店で購入しているが、水田や池等の底泥は独自に採取している。土質によって株の生育に多少の差が生じる。使用する培養土の種類は、各保存株データおよび培地リストに示した。
培地に加える水は、通常、脱イオン水(または蒸留水)を用いるが、汽水産の株の場合は1/3 Herbst人工海水を、脱イオン水でさらに1/3~1/2に希釈して使用する。
i) 容器の底から1/4~1/5まで土を入れる。
ii) 脱イオン水(または蒸留水)で土を湿らす。
iii) 容器にゆるく蓋をし、オートクレーブで2回滅菌する(121℃、20min)。その際、1回目のオートクレーブ後、一晩放置し再度オートクレーブする。
iv) 冷めたら、オートクレーブ滅菌した脱イオン水(または蒸留水)を静かに加える。単藻株用の培地では、土に水を注ぐ操作をクリーンベンチ内で行う。
保存されているシャジクモ類株の多くは単藻化されていない。したがって、本施設では混在する藻類、特に珪藻の増殖を抑えるために以下に示す方法で二酸化ゲルマニウム溶液(濃度1mg/L)を作成し、培地に添加している。
i) 1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液 200mLを沸騰させる。
ii) 突沸させないよう気をつけて二酸化ゲルマニウム 0.5gを添加する。
iii) 溶液を室温まで冷ます。
iv) 1 mol/Lの塩酸でpHを調整する(7.8~8.0)。
v) 蒸留水を加えて500mLにする。
vi) オートクレーブで滅菌し(121℃、20min)、冷えたら冷蔵庫で保存する。
Media list 参照。
無菌検査参照。
NIESコレクションでの凍結保存は、プログラムフリーザーを用いて徐々に-40℃まで下げた後、液体窒素で-196℃まで急速凍結させる二段階凍結法を用いて行っている。シアノバクテリアの多くの株、緑藻と単細胞性紅藻の一部の株、および大型の淡水産紅藻について、現在本施設で採用している凍結方法の概要を紹介する。また、微細藻類の凍結法についてはMori et al.(2002)および森(2007)に詳細な説明がある。
Mori, F., Erata, M. & Watanabe, M. M. 2002 Cryopreservation of cyanobacteria green algae in the NIES-Collection. Microbiol. Cult. Coll. 18:45-55.
森史 2007 微細藻類の凍結保存法. 日本微生物資源学会誌 23: 89-93.
i) 細胞懸濁液:対数増殖期終期から定常期初期の細胞。
ii) 培地:通常当該株の培養に用いている、滅菌済みの培地。
iii) 凍結保護剤:シアノバクテリアの凍結保存には、適当な培地で希釈した6%ジメチルスルホキシド (DMSO)を用意する。緑藻および紅藻には10%DMSOを用いる。これらは最終濃度の2倍の濃度である。DMSOはMillex-LGフィルターで濾過滅菌しておく。
iv) 器具および機器
(1) クリーンベンチおよび無菌操作に必要な器具類
(2) 2mLクライオチューブ:あらかじめ滅菌済みのものを使用する。チューブには株番号等、必要事項をラベルしておく。
(3)
プログラムフリーザー:NIESコレクションではPlaner Kryo 320-1.7を使用している。
(4)
デュワー瓶:10LシャトルドラムJIK-S10を使用している。
(5)
大きめのピンセット(19cm)、クライオ手袋、クライオエプロン、ゴーグル。
(6) 箱、ラック、液体窒素槽:NIESコレクションではNuncポリカーボネート製ストレージボックス、8段ステンレスラック、大陽日酸DR-245LMを使用している。
(7)
凍結保存容器:DR-245LM(大陽日酸)の液体窒素槽を使用している。
(8)
恒温槽:サーマルロボTR-1を使用している。
i) 滅菌した器具を用い、ii)からv)の操作はクリーンベンチで行う。
ii) 滅菌した培地で最終濃度の2倍になるよう希釈した凍結保護剤を、氷上で冷やしておく。
iii) あらかじめ株番号等をラベルした2mLクライオチューブに細胞懸濁液(対数期終期から定常期初期の細胞)0.5mLを分注する。
iv) 冷やしてあった凍結保護剤0.5mLを加え、クライオチューブを振って混合する。
v) 室温に15分間静置する。
vi) プログラムフリーザーにクライオチューブをセットし、毎分-1℃の冷却速度で-40℃まで冷却する(下図 9)。
vii) プログラムフリーザー内(-40℃)で15分間保持する。
viii) クライオチューブをプログラムフリーザーから速やかに取り出し、デュワー瓶に入れた液体窒素中に投入する(下図 10)。
ix) 1時間後、クライオチューブをストレージボックスに詰めてラックに収納し、液体窒素保存槽(気相)内に保管する(下図 11)。
i) 恒温槽を40℃に設定し、準備しておく。
ii) 恒温槽中にて、クライオチューブ内の氷晶が完全に消えるまで手でよく振り、融解する(下図 12)。
iii) クリーンベンチで、解凍した細胞懸濁液を新しい液体培地の入った試験管に移してよく攪拌し、通常培養より暗めの光条件で数日間培養し(株によって異なる)、その後通常の培養条件に移す。
i) 細胞培養液:植え替え後2週間以上経った藻体。但し藻体が大きい場合は、ピンセットおよびハサミを使って細かく裁断し、2週間以上培養する。
ii) 培地: Bold 3N培地。
iii) 凍結保護剤:チスジノリ(Thorea okadae )、フトチスジノリ(T. hispida )およびオキチモズク(Nemalionopsis tortuosa )には40% DMSOを用い、オキチモズクには30%メタノールを使用する。これらは最終濃度の2倍の濃度である。DMSOおよびメタノールはMillex-LGフィルターで濾過滅菌し、滅菌したBold 3N で希釈してある。
iv) 器具および機器:微細藻類の場合と同様。
i) 滅菌した器具を用い、ii)からiv)の操作はクリーンベンチで行う。
ii) Bold 3N培地でDMSOを40%、メタノールを30%に希釈し、氷上で冷やしておく。
iii) 2 mLクライオチューブに細胞培養液0.8 mLを分注する。
iv) iii)へ40%DMSOまたは30%メタノールを0.8 mLずつ加え、クライオチューブを振って混合する。DMSOを加えた場合は、室温に15分間静置する。
v) 4.1.2. vi)からix)と同じ手順で凍結する。
i) 恒温槽を40℃に設定し、培地を氷水で冷やしておく。
ii) クライオチューブを速やかに恒温槽へ入れ、手でよくチューブを振る(下図 12)。 クライオチューブ内の氷晶が完全に消える寸前に氷水へ移す。
iii) クリーンベンチで、直ちにチューブ内の細胞懸濁液を50mL遠心管に移し、氷水で冷やした新しい培地40mLを加え、静置する。
iv) 上澄み液をピペットで完全に取り除く。
v) 再び新しい培地を40mL加え、静置し、上澄み液をピペットで完全に取り除く。
vi) 藻体を新しい液体培地の入った三角フラスコに移し、通常の培養条件で培養する。
培養株を生きたまま野外へ放出すると、生態系を攪乱する等の潜在的な危険性が生じると考えられます。 利用いただいた後は、利用者が責任をもって死滅させた上で、確実に安全に廃棄してください。
a. 培養液の入った培養容器を湯煎するか、培養液を直接沸騰(5分以上)させて細胞を死滅させてください。
b. 培養液10mLに対し、塩素系漂白剤を1mL加え、一晩置きます。その際、培養容器のフタは軽くゆるめてください。
c. 培養液をキムタオル等に浸み込ませ可燃ごみとして廃棄する。