培養・保存

絶滅危惧藻類の域外保全 -車軸藻の系統保存

国立研究開発法人国立環境研究所では絶滅の危機に瀕している藻類、主に車軸藻と淡水産紅藻の系統保存を行っています(生息場所ではない所で種の存続を守っていくので域外保全といっています)。 現在、環境省のレッドデータブック(2000年版)には、47種類の藻類が絶滅危惧種としてリストアップされていますが、その中で、車軸藻は30種類を占めています。 国環研では、現在20種類57株の車軸藻を培養していますが、そのうち11種類37株が絶滅危惧種です(2006年8月現在)。 (笠井)


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シャジクモの単藻培養株

国環研では20-23℃の培養室で、
暗めの光の下で車軸藻を培養しています。

車軸藻保存株

学名

和名

保存株数

Chara australis オーストラリアシャジクモ
Chara braunii シャジクモ
Chara fiblosa species complex イトシャジクモ類
Chara globularis カタシャジクモ
Chara zeylanica ハダシシャジクモ
Chara spp シャジクモ属未同定種
Lamprothamnium succinctum シラタマモ
Nitella acuminata トガリフラスコモ類
Nitella axilliformis ミルフラスコモ
Nitella comptonii ジュズフサフラスコモ
Nitella flexilis ヒメフラスコモ
Nitella furcata フタマタフラスコモ
Nitella gracilens キヌフラスコモ
Nitella hyalina オトメフラスコモ
Nitella japonica ニッポンフラスコモ
Nitalla megaspora セイロンフラスコモ
Nitella mirabilis ミノリノフラスコモ
Nitella moriokae モリオカフラスコモ
Nitella pulchella ハデフラスコモ
Nitella spp フラスコモ属未同定種
Nitellopsis obtusa ホシツリモ

車軸藻の培養と単藻化

培養: マヨネーズびんの底が見えない程度の腐葉土を入れ、その上に黒土または砂を入れる。土を湿らせ、ふたを軽く閉めてオートクレイブにかけ(121℃ 20分)、滅菌する。 びんに水(国環研ではイオン交換水を使っています)を満たす。植える直前にゲルマニウム溶液を加える(珪藻の増殖を抑えるため)。 種類によって好む土が違うので、砂、黒土、砂と黒土を混ぜたもののどれかにとりあえず植え、その後はよく生えてきた土を使って培養している。

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培養株の実体顕微鏡写真: 左から;オーストラリアシャジクモ;シャジクモ;オトメフラスコモ;リクノタムヌスの1種

    
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培養株:左から;フタマタフラスコモ; シャジクモ; ホシツリモ

単藻化: 単藻化とは目当ての藻類1種だけにすることで、これによって混在する他の藻類に邪魔されずに増殖できるため、植えかえ間隔を長くすることができる。 保存のためには大きなメリットとなる。成熟した卵胞子を集め(下図)、次亜塩素酸処理、冷暗処理をほどこした後、滅菌した土に播種する。

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標本

標本の作り方

車軸藻類の標本は乾燥(さく葉)標本と液浸標本の両方を作成しておくと、その後の研究に便利である。 乾燥標本は、海藻標本を作るときと同じ要領で行う。 まず、

  • �@水をはった大きめのバットを準備する。
  • �Aバットの水の中で藻体 (特に枝の部分) をきれいに広げる。 このとき絵筆を使うと藻体を傷つけずに広げられる。
  • �B台紙で藻体をすくい上げ、絵筆を用いて形を整える。 このとき枝が重なり合わないように注意する。
  • �C水をよくきった後、ガーゼをあてて、新聞紙で挟むようにしてプレスする。

乾燥標本はいつでも容易に藻体の全形や枝の特徴を観察できるので、形態による同定を行うのに都合がよい。 しかし、古くなるとDNAの抽出が困難になるなどの欠点がある。

  液浸標本を作成するときは、その目的に応じて固定液を使い分けるとよい。 形態観察が目的の場合はFAA ( 50%エタノール : 酢酸 : フォルマリン=90 : 5 : 5 ) を用いるとよい。 一方、分子系統解析などのためにDNA抽出を行いたい場合は70%エタノールを用いる (または、液体窒素で固定し、-80℃で保存してもよい)。 DNA抽出が目的の場合は、他の生物の混入をできるだけ避けたいので、先端の、若いきれいな部分を選び、絵筆やピンセットを用いて細胞表面をできる限りきれいにすることがポイントである。(坂山)

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完成したさく葉標本