車軸藻の復元と保護

よみがえれ! 野尻湖のホシツリモ

長野県北部の野尻湖では1970年代に入ると水草が増えすぎて船の航行や漁業の障害となりました。 そこで水草の除去を目的に中国原産の草食魚ソウギョを放流したところ水草は3年間で食べ尽くされ、車軸藻ホシツリモもこのとき全滅してしまいました。
  ホシツリモは国内では野尻湖など4湖沼のみに生育していましたが他の湖沼でも確認されなくなりました。 幸い大阪医大に野尻湖産ホシツリモ株が培養保存されており、2000年のレッドデータブックでは野生絶滅種とされました。

 水草の全滅後、野尻湖では生態系のバランスが崩れ淡水赤潮の発生も見られました。 そこでホシツリモをシンボルにして水草全体を復元する目的に、1996年、研究者や住民による野尻湖水草復元研究会が発足しました。 まずソウギョの進入を防ぐために網で囲んだ復元実験区を野尻湖に設置し、ホシツリモ培養株を植栽して復元を検討しました。 その結果ホシツリモが野尻湖内で生育するためには、エビ・小魚などの小動物や水草などの生物と共存して互いに関係をもつ環境が必要であることがわかりました。 そこで実験区内にその環境を復元するとホシツリモはよく成長して小さな群落をつくりました。 しかし最近は急激に増えたブルーギル(北アメリカ原産の淡水魚で特定外来生物)の食害を受けるなど新たな障害が発生しており、その対策を検討しています。 このような野尻湖の環境保全活動を地元住民の手で継続していくため、野尻湖水草復元研究会では住民や小学校児童と共に水草復元活動や環境教育活動を行っています。                  (樋口)

lake-Nojiri

野尻湖。 妙高山を望む。  (撮影:近藤洋一氏)

nojiri-Nitellopsis

野尻湖の水草復元実験区(水深4.5m)で
成長するホシツリモ (撮影:酒井昌幸氏)

テガヌマフラスコモの復活 -手賀沼

千葉県北西部にある手賀沼はかつては多くの車軸藻が生育するきれいな浅い沼でしたが、1970年代以降急速に水質が悪化し、日本一汚れた沼として有名になりました。 車軸藻はすべていなくなりました。 しかし手賀沼の土を水槽や人工池に入れることで合計9種類の車軸藻が再生しました。 その中にはテガヌマフラスコモという、手賀沼をはじめ、それまでに知られていた生息地全てで姿を消し、絶滅したとされていたものもあります (2000年環境省レッドデータブックでは絶滅種)。 車軸藻には「卵胞子」というものがあり、沼の土の中に今でも発芽可能な状態で眠っているのです。
  近年、手賀沼の水質浄化が進められています。 土中の卵胞子やそれらから得られた株をうまく使うことが出来れば、近い将来、車軸藻類が繁茂するかつての手賀沼を復元することができるかもしれません。         (森嶋・佐野)

Teganuma-Nitella

(上左図) 手賀沼の土から再生した、左からケナガシャジクモ、テガヌマフラスコモ、オトメフラスコモ
(上右図) 朝の手賀沼。 幅も狭く、浅い沼で、かつて水底は多様な水草や車軸藻におおわれていたそうです。