役割・・・湖をよみがえらせた車軸藻

きれいな湖沼には車軸藻帯が発達することは知られていましたがどんな役割を果たしているのかはわかっていませんでした。
 オランダの Valuwemeer湖は、かつては水草 (ヒルムシロ) と車軸藻が茂るきれいな湖でしたが、1960年代に富栄養化が進行し、アオコが発生する典型的な富栄養湖沼となりました。1980年にリン負荷削減と湖沼水のいれかえを行い、湖の修復をはかりましたが、透明度はなかなか回復せず、10年後に車軸藻が湖沼の60%程度を覆うようになってから、透明度が回復しました (下図)。
 オランダでは22の湖沼の修復が図られ、その50%にあたる11湖沼で車軸藻が復活し、きれいな湖にもどっています。透明度はおもに水中の懸濁物質と植物プランクトンの量で決まります。車軸藻帯が復活したことで車軸藻が密に底泥を覆って、底泥からの再懸濁を防止し、また多様な動物が生息するようになり、植物プランクトンが捕食されて、その量が減少したことで透明度が回復したと考えられています。
車軸藻は湖沼の透明度を高く保ち、水生生物の多様性を育む重要な役割を果たしているといえます。(渡辺)

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(Van den Berg et al. 1999を改変)

現状・・・日本から消えつつある車軸藻

日本産の車軸藻類は、1960年代までの研究では4属74種類が記録されており、この中には日本固有の35種類が含まれています。
 1970年代の日本経済の高度成長期を発端とする環境破壊が日本の車軸藻類の生育分布にどのように影響を及ぼしたのかを調べるために、1992年から車軸藻類の分布調査が行われました (左図)。 1964年に加崎英男博士によって調査された日本の46湖沼の車軸藻類を再び調査し、当時記録された種類数と現存する種類数を比較するのが目的でした。
 現在までに39湖沼の調査が終了し、27湖沼では車軸藻類の生育がまったく認められず、日本の湖沼全体から車軸藻類が消滅していることが明らかになりました (右図)。
 2000年発行の環境省レッドデータブックにある5種類の絶滅種 (しゃじくもレッドリスト参照) は日本固有であり、世界からの消滅を意味します。 しかし最近、東京海洋大の学生の丹念な現地調査で野生絶滅種ホシツリモが河口湖湖底に生育することがわかりました。 また、千葉県立市川西高校の生物部が手賀沼の底泥から手賀沼原産の絶滅種テガヌマフラスコモを復活させることに成功しました (後述参照)。 絶滅した車軸藻類のこのような復活の例は世界的に見ても唯一であり、同様の手法による更なる絶滅種の復活が期待されます。
 また、2004年からはため池を中心とする調査も行われています。      (野崎)

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1992年から行われた湖沼の車軸藻類再調査の様子。
加崎博士のお元気な姿。
lake_map
再調査が行われた湖沼の車軸藻類の生育状況。
( )内の数字は1964年調査時の種類数 。
赤は絶滅、緑は現存した車軸藻類の比率を示している。
       (Watanabe et al. 2005を改変)

車軸藻が絶滅した理由

1. 富栄養化による透明度の低下
      (アオコ等の繁茂により車軸藻に必要な光が届かなくなった)

2. 開発、水位変動   (八郎潟のシラタマモは干拓によって消滅した)

3. 草食魚の人為的導入   (野尻湖のホシツリモはソウギョによって消滅した)